第84章 叶わぬ恋の先
恥ずかしくて、申し訳なくて、何度謝っても足りない。
自分は患者の力に、支えになるために、この仕事をしているのだ。
病院が、嫌な場所になって欲しくない。出来るだけ、患者が楽しく元気に過ごせるようにしたい。笑っていて欲しい。そのためには、いくらでも力を尽くして努力する。
そんな、患者に寄り添った医療員になりたかった。
それなのに、自分は今回、キリにどれだけ辛い想いをさせ続けていたのだろう。
この一年の間に、たった一度だけ聞いたキリの冷たいあの声は。
キリのSOSだったのだ。
その後、キリはどんな態度をとったことか。
冷たい態度をとってしまった事を、謝った。医療員には気にしないでくれと言って、自分が悪いのだと、キリは思ったのだ。
限界を超えてようやく出せたSOSの言葉に、気付けなかった自分は、一体何をしていたのか。
患者の何を見ていたというのだろう。
『お友達に……なってくれたんです』
キリと自分は、患者と医療員。
確かにそうだが、その中で違う関係も育まれていた。
偶然にもキリとは同じ歳で。歳の近い人がそばにいなかった医療員の話し相手に、キリは快くなってくれた。
仕事の合間や、仕事の後にキリとするお喋りの時間は、凄く楽しみで、嬉しかった。
そして、キリも。
医療員が病室へ訪れた時は、ふわりと笑顔で迎えてくれた。
帰りにはまたねと言って、手を振ってくれた。
医療員と同じように、その気持ちを共有してくれていたのだ。
ーーきっと医療員が、シカマルの話を持ち出すまでは。
『……っ』
ではその後は。
その後のキリは、どんな気持ちだったのか。自分には、その全てを想像することは出来ないが、辛かったことだけはわかる。
〈楽しい時間〉を、自らの手で〈苦しい時間〉にしてしまった。
キリの気持ちを潰し続けてきた。
《キリさん……っ》