第84章 叶わぬ恋の先
どこまで聞こえてしまったのかと窺う彼女に、シノは少し申し訳なさそうに言葉を迷わせた。
シノ「すまない。聞き耳を立てるつもりではなかった」
資料室の前で、シノはキリと医療員が話しているのに気付いた。
二人の会話が終わってから姿を現わすか、それとも二人の中に混じるか、どちらにしようかと考えていたのだが。
会話の内容があらぬ方向へと転移して、あっという間にシカマルの話へと変わったのだ。
その内容に、シノの身体は停止してしまい、立ち去ることが出来なかった。
世間話から、その後まで。全て聞いたと正直に告げれば、医療員は涙を流して、つらそうな顔で無理に笑顔をつくる。
『す、すみません。お見苦しいところをお見せしてしまって……本当に恥ずかしいです』
シノ「……無理に笑う必要はない。辛いならそう言えばいい」
『いえ、違うんです』
シノ「シカマルのことが好きだったのは知っている。隠さなくてもいい」
『……! シノさんは気付いて、いましたか?シカマルさんと、キリさんの……』
シノ「ああ。お前たちはわかりやすいからな」
中でもキリはわかりにくい方だが、それも知っていたと告げたシノに、医療員は思い詰めるような表情を見せた。
シノ「……お前が本当にシカマルを好きだったことも、わかっている」
だから無理をするなと、もう一度伝えれば、医療員はぎゅっと目を閉じて首を振った。
『本当に、本当に……違うんです』
医療員の瞳は今にも泣き出しそうで。シノのサングラス越しに、二人の視線が混じっていた。
『……っ』
シノ「ゆっくりでいい。話を聞くぐらいは出来る」