第84章 叶わぬ恋の先
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資料室を出たあと、医療員はその場を離れるために走った。
『……はぁっはあっ』
人気のないところで立ち止まれば、その瞳から、ぽたぽたと涙が溢れ出る。
『うっ……っく、ぐす』
次の時間など、嘘だった。
もう回診は終わっている。
もうあれ以上、あそこにいればいつ涙が溢れるかわからなかったのだ。
ごしごしと拭っても拭っても溢れる涙を、床へと落としながら、医療員は嗚咽を必死で堪える。
シカマルの公開告白は、噂好きな女性たちによって風に乗り、すぐに医療員のもとまで届いた。
噂は嘘が飛び交い、誇張するものだから。鵜呑みには出来ないと思ったが、その噂のもとが上忍勢であり、彼の父親や担当上忍達が流していたのだから、信じるほかなかった。
《自分が……恥ずかしい》
気が付かなかった。
シカマルとキリの想いに。
こんなに近くで二人のことを見ていたのに。
医療員が幼い頃に抱いた淡い恋心。
まさかシカマルとまた出会えるなんて思ってもいなくて、嬉しくて、舞い上がってしまった。
それからシカマルのことになると、まるで周りなんて見えていなくて。シカマルだけにいっぱいいっぱいだった。
《考えれば……すぐにわかるのに》
シカマルが、何故キリの検査結果を毎度聞きにきていたのか。
キリ本人よりも熱心に聞いていたのは、キリのためで、キリが好きだからだ。
シカマルのその言動を見ていれば、彼の優しさはキリにだけ、どこか違うのに。
キリにしか、見せない表情があったのに。