第84章 叶わぬ恋の先
医療員が病院にいる間、キリの噂はよく耳にした。
特に、担当になってからその名前を気にするようになったが、キリの悪い噂をどれほど聞いただろうか。
だがその中でも。キリの能力の高さを、彼女の強さを、人づてに何度耳にしたことか。
そして本当は優しい人なのだと、何度も聞いた。
こんなにも悪評轟く中で、そんな風に良い風評が流れることは、難しいことだろう。
そして、キリと出会って話して、すぐにわかった。彼女がどのような人間か。
そしてまた、理解した。
心無い噂を流している人間は、キリのことをよく知らずに先入観で語っていて。
キリのことを良く言う人間は、キリと関わった事がある人物なのだと。
『……本当に、キリさんとシカマルさん、お似合いだと思います。本心です』
キリ「………」
『だから、私のことなんて気にしちゃ駄目ですよ! 私、お二人のこと応援しますからね! それに私、他に気になる人がいるので』
キリ「え?」
『だからそもそも気にする必要もないんです。あ、私次の時間があるのでそろそろ行きますね! 会いに来てくれてありがとうございました』
ぱたぱたと手早く後片付けをして、入り口の前で手を振った医療員は、笑顔を見せた。
『頑張って下さいね。あと、絶対無茶したら駄目ですよ! それでは』
たたたっと去っていった医療員は止める隙もなくて。
キリは止めようと手を伸ばしたまま、資料室に一人残された。