第84章 叶わぬ恋の先
キリがこの里へ来てから、そう時間は経ってない頃にと。
そう告げて、どきどきと医療員の反応を待っていれば、にこりと笑顔を向けられた。
『もーキリさん、どうして言ってくれなかったんですか? あ、もしかして私のことを気にしてですか?』
キリ「え?」
『それだったら気にし過ぎですよー! でも、そうですねすみません。確かに言い難いですよね』
キリ「あの」
『確かに慕ってはいますが、私のは恋というよりも憧れなので! わー本当に素敵だと思います。キリさんとシカマルさん、すっごくお似合いですよ!』
医療員の反応が、想像と違っていて、キリは戸惑いを隠せずにいた。
怒るか、優しい彼女は困って悲しむか、そのどちらかだと思っていたのに。
キリ「……無理を、しないで」
『っ……』
キリ「ごめんなさい色々と事情もあって、言わなかった。それを今になって言うなんて、勝手で……本当にごめんなさい」
『………』
真っ直ぐに、目を見て伝えてくれたキリに、医療員も真っ直ぐにその視線を返した。
『本当に違うんですよ。うーん……なんと説明すればいいんでしょうか』
うんうんと悩む彼女は、あっと閃いたように顔を上げた。
『あれです、有名人に会えた時のような! 確かに私はシカマルさんが好きですが、その好きは〈憧れ〉です。キリさんの好きとは違います』
「わかってもらえましたか」と言われて、今度はキリが悩むような素振りを見せる。
name1#「……私は、そんな風に誰かを思ったことがなくて、よくわからないわ。彼も、有名ではないし……」
ああでもアカデミーの頃、サスケを相手に騒いでいたくノ一達の姿が思い浮かぶ。それと同じようなものだと、言っているのだろうか。
『ふふ、有名人はたとえ話です。でも、シカマルさんはそれぐらい素敵な方ですよね』
そう告げる医療員に、こくりとキリは頷けば、医療員はふわりと笑顔を見せた。
『キリさんも、とても素敵な方です』