第84章 叶わぬ恋の先
キリ「あの……」
『そ、そういえば!』
いつまでもこうしてはいられないと、意を決して口を開けば、医療員の声が重ねられた。
『聞きましたよ、あのこと』
キリ「……あのこと?」
一体なんの話だと首を傾げれば、医療員は笑顔を見せる。
『シカマルさんの、広場での大告白です』
もう里中で噂になってましたよと、笑う医療員の笑顔は、どこかぎこちなく見えた。
キリ「あ、と……その、それについて話がーー」
『もー私、全然気が付きませんでした!』
ハイテンションな医療員の止まらない発言に、口を挟む隙がなくて、キリは困惑気味に医療員を見つめる。
キリ「あの」
『本当羨ましいです! そんな状況で言われるなんて、凄く愛されてる証拠ですよ!』
あのシカマルがそんな風に言うなんて、自分には想像がつかないと言いながら、医療員は笑顔を絶やさない。
『キリさん、も……好きなんですか?』
キリ「!」
どくりと、心臓が鳴った気がした。
無意識に、体に力が入る。
キリ「ええ、彼のことが好き」
今度こそ、ハッキリと告げたそれは、思いのほか資料室に響いた。
一瞬、ぎこちない反応を見せた医療員だったが、いつものように鈴を転がしたような声音で語る。
『いつからですか?』
キリ「……ずっと前から」