第84章 叶わぬ恋の先
キリ(……でも)
その前に、話さなくてはいけない人物がいる。
勉強熱心な彼女ならきっと、資料室にいる頃だろう。
彼女に会う前に、 とてもシカマルとは話せない。
キリは重たい体を起こして、病室から出る。
そういえば、最近ばたばたと慌ただしい日々が続いていて、会うのも久しぶりだなと、そんなことを思った。
資料室へ到着すれば、やはり彼女はそこにいて。
うんうんと資料とにらめっこする彼女の短くしばられた髪が、ぴこぴこと揺れる。
『この薬を……合わせて、いやでもそれだと………!』
目の前に座れば、ようやくキリの存在に気が付いた医療員は、顔を上げた。
『キリさん!』
キリ「……久しぶり。元気だった?」
そう問えば、医療員は眉を下げて微笑んだ。
『私よりもキリさんでしょう! もう、本当に無茶ばかりして……心配したんですからね!』
無事な姿に安堵すればいいのか、怒ればいいのか。複雑そうな表情を見せる医療員に、キリも困ったように微笑んで返した。
キリ「ごめんなさい。もう平気」
『平気じゃないでしょう顔色が優れませんよ! だいたいキリさんは、病院へ運ばれる回数だって多過ぎです!』
それに、病院へ来る時はいつも入院を余儀なくされるほどの重症で、本当にあまり無茶をしないでくれと、その後こんこんとお叱りを頂いた。
少し話に花を咲かせてしばらく。二人の間に沈黙が訪れる。
キリ.医療員「………」
言わなければ、シカマルのことを。
本当は、キリも彼を想っていたことを。
そう思うのに、そのために会いに来たのに。喉で言葉はつっかえた。
シカマルに会って、はにかむような笑顔を見せる医療員や、嬉々として語るその姿を思い出す。
こんなことなら、もっと早くに言っておけば良かった。
でも、あの頃は本当に、その先を望むことなどまるで考えていなかったのだ。
そんな後悔と言い訳を重ねたところで、なんの意味もない。