第84章 叶わぬ恋の先
キリ「い、今更……それに私は実際に、里のみんなを」
いままで散々、遠ざけてきたのだ。
シカマルの好意と誠意を、キリは無下にしてきた。
それなのに。自分の都合で、態度をころりと変えるのか。
そして、いくらナガレが仕組んだこととはいえ、キリが両親や、同郷たちを傷付け、殺した事実は変わらない。
親殺しで同胞殺しの異名は、まぎれもない真実なのだ。
カカシ「シカマルがそれを気にする男かどうかは、キリの方がよく知ってるんじゃない?」
最後にカカシは、後押しするように一度キリの背中をとんっと叩いて、病室を後にした。
…………………………
病室で一人、キリは想いを馳せる。
【シカマルに、伝えなくていいの?】
それは、言うまでもなく以前、しまいこむと決めた恋心のことだろう。
この手は血に濡れてしまっているが。カカシが言っていたように、シカマルはそれをよく知った上で、そばにいたいと思ってくれた。
木ノ葉隠れの里で、キリの存在は、みんなから受け入れられているのかと問われれば、そうではない。それでももうキリを狙って、大きな戦いに発展することはないだろう。
キリの近くにいたことで、誰かが命を危険に晒されることもないということだ。
「みんなと一緒だ」と、そう言ってくれたカカシの言葉に、心がとても軽くなった。
キリはこれから、怯えながら外を歩かなくてもいい。
普通に、生きていけるのだ。
キリ(会って……話したい)
今なによりも、シカマルに会いたかった。
会えばどんな話をするのか。本当に伝えるのか。
それはひとまず置いておいて、この目にその姿を映したかった。