第83章 ヒーロー
カカシ「さて、取り調べ室で詳しい話を聞かせてもらいましょうか」
ナガレ「……出来れば、このまま撤退させてくれるとありがたいんだけど。拒否権はないのかな」
カカシ「もちろん」
にこりと圧をかけられて、ナガレは微笑み返す。
もう今更抵抗する気もない。
ナガレ「言ってみただけだよ」
その取り調べ室とやらに案内してもらえるかと、カカシの後に続けば、感じる視線にナガレは振り返る。
そこには、これ以上ないぐらいに眉根を寄せているシカマルの姿があった。
シカマルさえいなければ、キリの奪還は成功していただろう。
本当に、よく邪魔をしてくれたものだ。
ナガレ「君のおかげで、キリを取り返せなかったよ」
シカ「キリはあんたの所有物じゃねぇ」
怒りを隠そうともせず、噛み付くシカマルが、忌々しくもあり……嬉しくもある。
ナガレ「………」
〈すまなかったね、少年〉
ぽつりと本当に小さく、そう呟いて、ナガレは再び前を向いて歩き始めた。
…………………………
カカシ「本当に子どもたちに、許して欲しいと思ったことはありませんか」
ナガレ「一度もないよ……でも」
ナガレは即答する。
許して欲しいなんて、思ったことは少しもないし、生涯その言葉を口にすることはない。
ナガレ「……逃げてくれと、思ったことはあるかな。懐かれるばかりだったけどね」
樹の里に忍び込んだ異質に気付けと。
ただでさえ、激痛を伴う薬剤投与をしているのだから。
でも、みんな馬鹿みたいに、ナガレを信じて慕い続けた。
カカシ「子どもにとって、どんなことをされても親は親ですからね」
ナガレ「親? どうして私が」
カカシ「施設での生活が長い子どもたちにとって、あなたは育ての親だったんでしょう」
ナガレ「……それは、気の毒なことだね」
いつまでも、笑顔で走り寄ってくる子どもたちの姿が浮かぶ。
異常者が育ての親だなんて、運が悪いにもほどがあるだろう。
今、胸に感じた痛みは、一生消えることはないのだろうと思った。