第83章 ヒーロー
いつからか、ナガレは実験体に、研究対象として以外の感情を抱いている。
理解不能だった胸の痛みも、胸のあたたかさも、全て全て、愛情というものらしい。
ひたむきな子どもたちに、慕われるのは悪くない。その死は、どこか悲しい。
だが、根っからの研究者であり、それに人生を捧げて生きてきたナガレの性質が、完全に変わったわけではない。
尽きることのない探究心と研究意欲。
時折、彼らを気遣う心や、愛おしいという感情が顔を出す。
偽善のはずだった笑顔と優しい言動は、果たして偽りなのか誠なのか、自分でもわからない事が増えた。
異常者がもった愛情に、矛盾する日々が続いていた。
…………………………
そして現在。
ナガレは、カカシの指示によって、医療室へと運ばれる子どもたちに目を向ける。
ナガレ(許して欲しいなんて……思っていないよ)
シカマルに告げたその言葉は本心だ。
もう一度、過去に戻れるとしてもナガレはやはり、樹の里へ行き、研究施設を作ると断言出来る。
ナガレは研究者だ。もし、自分の人生から研究をなくすというのなら、それはもう生きている価値がない。
そんな人生なら必要ないと言えるほどに、ナガレにとって研究は無くてはならないもので、愛している。
それでも。
薬で強化されたキリの姿に、恍惚で満たされる感情と、悲痛な叫びに目を伏せたくなる気持ちもあって。
最初からキリ達を裏切っていたのに。
全て嘘だったのか違うと言ってくれと、涙を流して、まだナガレを信じようとする馬鹿なイチカの姿に、心臓が握られたかのような感覚になる。
その相反する両方が本当なのだ。
片方を求めれば、その片方が割りを食う。
機会さえあれば、自分はさらなる研究に全てを費やす。
それが変わらないから、変われない。