第83章 ヒーロー
手合わせの時。戦闘時。イチカは胸を張ってキリと共に戦った。
その姿は、どこか誇らしげに見えた。
そして、その頃にはキリは致死量を超えた薬物投与を行う日々にいた。
痛くないはずはない。それでも、樹の里の子どもたちは。特にキリとイチカの二人は、根をあげる事がなかった。
二人には、過剰な投与量だったのにも関わらず。
涙ぐましい努力と、我慢がそこにあった。
それでも、二人はいつも笑っていた。
楽しそうに笑顔をこぼして、心地の良い笑い声が聞こえた。
そして、ナガレの研究は続く。その中で、胸に小さな違和感を覚えながら。
そして、いつの日だったか。
なにやら、子ども達の様子が普段と異なり、態度や返答がおかしい時があった。
こそこそと何かを話していたり、こちらの様子を窺うような空気に、ついに不信感を持たれたのかとナガレは思った。
ナガレ(しまったな……。しかし、なぜ突然?)
数日が経ったある日。
キリに誘われて、ナガレは大広間へと向かった。そこで待ち受けていたもの。
それは盛大な拍手と、笑顔。そしてみんなは、口々に感謝の言葉を口にする。
〈いつもありがとう〉そんな言葉と共に、両手に溢れんばかりのプレゼントを手渡される。
ナガレ「これ……は……??」
呆気にとられて、ぽかんと口を開けていれば。
子ども達から「お世話になっているから、感謝の気持ち」だと言われる。
本当に、愚かなものだと、そう思った。
最近、こそこそと何か行動していたのは、この為だったのだろうか。そんな馬鹿な事をしている暇があるなら、技の一つでも磨けばいいものを。
ナガレは、両手にガラクタを抱えて、研究室へと戻る。
実験体からの贈り物など、無益過ぎてゴミに等しい。このガラクタは、全て破棄しよう。
ナガレ(……………)
そう思ったのに、手は意思と反して停止する。
みんなの屈託のない笑顔や、自分が何か得たわけでもないのに、なぜか嬉しそうなその姿が、頭に浮かんで離れない。
そして、そのガラクタを全てしまって、蓋をした時。ナガレはついに、この感情の意味を理解する。
信じられないことだ、いや信じたくないことだった。