第83章 ヒーロー
樹の里は、流行り病に襲われていた。
激しい頭痛や嘔吐、高熱が続き、感染力も高い。病は次々と住人に猛威を振るっていた。
対策や看病に尽力するものの、被害は広まるばかりで、住人達は身も心もすり減らしていた。
そんな流行り病は、ナガレの研究心をくすぐった。
一体、何が原因で人体を攻撃、破壊しているのか。
危険だという里の長の忠告も聞かず、ナガレは研究を開始する。
実に面白かった。様々な解毒薬を使用しても、多少緩和されることがあっても、完全には治らない。
謎の流行り病とナガレの知識の戦いが始まった。
しかしそんな戦いも、たったの数日で終息する。
改良を重ねて作った薬は、住人の症状を回復させた。
それと同時に、ナガレの昂ぶった熱も急速に冷えていく。
少し珍しい種類ではあったが、わかればなんでもない。解毒剤の配合も容易。蓋を開けてみれば、実に陳腐な病だ。
確かに感染力は驚異的だが、持続力は低い。薬など使用せずとも、数日待てば勝手に回復する類のものだった。
【ありがとうございます、ありがとうございますっ! なんとお礼を言えばいいのか】
住人たちは、こぞってナガレに感謝を示した。
ナガレ(……つまらない)
ナガレ「……いえ、では私も次のところへ行きます」
【そ、そんな! 貴方が居なくなれば里の者はみんな……っ、あと少し、あと少しだけ滞在してもらえませんか】
後生だからと頼み込まれても、毛ほどの興味もない。もうこれ以上、ここにいる理由はなかった。
ナガレ「いや、それなら数日経てば回復は……」
実験体に何人か捕まえて、さっさと去ろうと思ったが、住人の眼差しを見て、ある考えが浮かんだ。
ナガレ「……そうですね、ここまできたら私も責任を持って最後まで診ましょう」
【っ、本当ですか!? ありがとうございます、何と、何とお礼をすればいいか……っ】
ナガレの言葉と共に、住人は歓喜と感謝の叫びを上げる。
【ナガレさん、一度お休みになって下さい。私たちのために治療続きで、ここへ来てからずっと眠っていないでしょう】
もはや崇めるような住人の眼差し。思わず笑いが込み上げた。
そして、それと同時に決めた。
ここを、自分の研究所にすると。