第83章 ヒーロー
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ナガレは目の前で、怒りを露わにする少年を見つめていた。
実のところ、ナガレは樹の里の生まれではない。
ナガレ(………)
齢40になろうというナガレは、物心つく頃にはもう異端児だった。
いや、それとも異常者という方が近いのか。
人体の構造や性質に異常なほど興味を示し、その興味はいつしか〈人体改造〉へたどり着く。
ナガレがシカマル達と同じ年の頃には、もう実験体を作っていた。
そして、ナガレの知識不足や経験不足、またはたちの悪い挑戦から、命を落とした者は数知れず。
失敗に比べて、成功は数少なかった。
それから数年の時を経ても、成功率はさほど変わることがなかった。
成分も配合も何一つ間違ってはいないはずだ。昔と違って、知識も経験も十分身に付いているのに何故。
ナガレはそんな疑問の日々の中にいた。
実験を繰り返すうちに、いつしかナガレの周りには人がいなくなる。
ナガレの異常に気付いた者たちは、どこかへと去っていってしまった。
あれもこれも試さなくてはいけないのに、実験体は一つの結果で、駄目になってしまう。
研究意欲に対して、まるで実験体が足りていなかった。
だからナガレは、旅に出た。
その時々で新しい知識を得ながら、実験体を捕まえては、研究を繰り返した。
そして、ある実験体がナガレの欲しい研究結果に近いものを出した。そこで、ナガレは気付いた。
やはり、ナガレの薬が間違っているわけではない。
同じ薬を使用しても、質の悪い実験体は駄目になり、質の良い実験体は結果を残す。
つまり、ナガレの薬に耐え切れる器が必要なのだ。その器がないものは簡単に壊れてしまう。
そして、今回良い器であったはずのそれも、もう駄目になってしまった。
非常に勿体無いことをした。
壊れれば新しく実験体を用意すればいいと思っていたが、次もまた質の良い実験体が手に入るわけではない。
そんな中で、ナガレは小さな里に立ち寄った。
それが、キリの住む樹の里だった。