第83章 ヒーロー
イチカ「あ゛あぁっ!!」
恍惚な表情を浮かべるナガレの足元で、イチカは先ほど打たれた薬の影響で、苦痛の叫びを上げた。
『なんだ? このガキどもは』
『みんなうちの里ではないようね。どうする?』
指示を仰がれた暗部の隊長は、辺りを一瞥すると、すぐにその答えを告げた。
『……殺せ。侵入者だ。捕虜は一人で充分だろう』
『 『御意』』
ナガレ「!」
木ノ葉隠れの里は、基本的に円満な解決策を取り、平和的な傾向がある。だから、その冷徹な判断はナガレにとって意外だった。
だが、ナガレ自身を顧みると、すぐにそれもそうかと納得する。
樹の里の住人は、大らかで心あたたかい性質を持っている。里の権力や財力などがあるわけではないが、人柄だけでいえば、どこと比べても見劣りしない里だろう。
そんな中でも、ナガレのような性質を持つものが混じっているのだから。木ノ葉の里にも、無慈悲な現実主義者がいてもなんら不思議はない。
暗部が、呻くイチカにも手を出そうとして、ナガレは自分でも驚く行動に出た。
ナガレ「待て、その子は関係ない」
咄嗟に、イチカを庇うようにして体を覆ったナガレのそばで、金属音が鳴った。
カカシ「はい、ストーップ」
『カカシさん』
暗部のクナイを止めたカカシは、仲裁に入る。
だが、そんな制止を聞かずに、周囲の暗部は更なる攻撃を試みた。
カカシ「こらこら、君達ちょっと待ちなさいって」
まったく、と人数分に用意されたカカシの影分身が、彼らの追撃を相殺する。
『何故、止めるのですか』
カカシ「侵入者っていっても、何も殺さなくてもいいでしょ」
スッとその場に座り、イチカの容体を確認するカカシは、ある事に気が付いた。
カカシ(……傷が深いな)
カカシ「!」