第83章 ヒーロー
もう、こうして抱き止めているだけで充分だろうとキリを捕らえていた影を開放する。
キリの腕は、ゆっくりとシカマルの身体を掴んだ。
シカ「泣くな、キリ」
キリ「ごめっんなさ、い……っ、うっ」
シカ「お前が謝ることねぇよ」
二度目の悲劇は、何とか止められた。
本当に良かった。キリが再び、望まぬ殺生で罪を背負う事がなくて。誰かの人生を奪う事がなくて。
ただ、今回のことでキリは何を思っただろうか。
全ては。赤ん坊の頃からそばにいて、キリを育て、慕っていた人物が仕向けたことで。
それが原因で、両親や親友の家族、同郷に手をかけた。いや、手をかけさせられた。
その事実は、どれだけキリの心を抉ることになったのか。
今まで誰も失う事なく、信じていた者に裏切られる事もなく、平和に平凡に生きてきたシカマルには、想像もつかないものだろう。
それに比べれば、時間が経てば癒えるシカマルの傷など、大したことではないのだ。
シカ「泣くな」
どうか、あんな奴のせいで泣かないで欲しい。
何故、キリはこんなにも苦しまなくてはいけない人生だったのか。
キリに非は無いのに、キリがこんなにも涙を流している事が、悔しくて自分まで泣いてしまいそうになった。