第83章 ヒーロー
キリ「耐え、られる……っ」
誰かを傷付けるよりもずっと。そう告げたキリに、シカマルはぐっと中和薬を握りしめた。
キリ「うっ……」
キリの抵抗がまた力を上げてきた時、シカマルはそれを使用した。
キリ「だ、め……ま、だ……抑えられない」
奥歯を噛み締めて、身体を震わせながら湧き上がる殺意に必死に耐えるキリを、再び抱き寄せる。
シカ「それまで、俺がぜってぇ止めてやる」
チャクラ不足がなんだというのだ。何があっても、術を解いたりしない。
なんの為に今まで修業を重ねてきたのか。
ここでキリを止められないなんて、それはもう男ではないだろう。
キリ「っ………」
キリの瞳に、涙がたまる。
もう限界だった。
こんな状態なのに、シカマルのキリを抱く腕が優しくて、シカマルの匂いがして。
堪えようと思う暇もなく、それは頬を伝ってシカマルの衣服に吸い取られていった。
ぽたぽたと落ちるキリの涙。
見えてはいないが、その存在はシカマルにも伝わって、なおさらギュッとキリを抱く力を強めた。
キリ「ごめ、なさ……っ」
ゆっくりと小さくなっていくキリの抵抗力の代わりに、キリの涙は溢れ出る。
キリ「たくさん、傷を、っ……本当に……っ」
嗚咽混じりに震える声で告げるキリに、シカマルは今日ついた傷よりも、折れてしまった肋骨よりもずっと、胸が痛みを訴えた。
シカ「……お前ほどじゃねぇよ」
キリ「私は……怪我を、してないわ」
シカマルが大事に大事に、止めてくれたから。シカマルの身体とは正反対で、キリには傷一つない。
シカ「お前ほどじゃねぇ」
自分に負傷はないと告げるキリに、もう一度そう言えば、その意味が伝わったキリは、更に涙の勢いを増した。