第83章 ヒーロー
シカマルはキリに、イチカから預かった中和薬を使用する。
どうか効いて欲しい。
でも、勝率はあった。
先ほど、少年たちを相手にして、キリは片鱗でも自分を抑制している姿が見えたから。
それならば、僅かでも薬を緩和するものがあれば、おそらく状況は変わる。
キリならきっと、少しの手助けで自分を止められるはずだ。
けれど。影を縛っているのに、力の限り抵抗を見せるキリ。シカマルは顔を歪めて、もうひとつの中和薬を取り出した。
足りなければ使えとイチカに渡された薬。だが薬には、正しい服用法がある。
たとえ、それが解毒や中和薬の類であっても、多量摂取は使用者の身体を壊すことがあるのだ。
シカ「くっ……」
キリの抵抗が強過ぎて、これだけの至近距離で術を使用しているのに、チャクラの消費は激しい。使用するべきか否か。
その判断に悩んでいると、ふとキリの抵抗が弱まった。
キリ「っ……それも」
シカ「キリ!!」
それは、久しぶりに聞いた〈キリの声〉だった。
キリ「早くっ……!」
追加の中和薬投与を促すキリに、シカマルは迷いを見せた。
奈良一族も鹿の角を用いた薬の製薬を行う。だから、他の忍より少しは薬の知識がある。
それに、度々行われたキリの検査結果から、キリがどれほど薬に耐性があるのかも、シカマルは知っているのだ。
完全に常識を逸するキリのそれ。
そんなキリに効果を見せるこの中和薬は、決してシカマルたちが普段使用しているような可愛らしい内容ではないのだろう。