第83章 ヒーロー
こちらに向かって、駆け出したキリに、シカマルは印を組み上げる。
シカ「派手な一撃必殺ってのもいいけどよ」
今は、そんな必殺技よりもずっと、奈良一族の秘伝忍術がありがたかった。
シカ「影真似の術!!!」
そんな一撃必殺を、どうやってキリに向けるというのか。
キリを無傷で止められる術を、今自分が持っている事に、心から感謝する。
キリ「!」
ピタリと止まったキリの身体。
そのすぐ隣には、シカマルが先ほど作った土の塊があった。
シカ「影真似の術、成功」
にっと口角を上げて、シカマルはキリのもとへと歩み寄る。
キリを捕らえようと影を伸ばせば、キリはそれを回避してしまうから。
それならばいっそと、キリが来るのを待つ事にした。
どれでも良かった。
周囲の土の塊、全てに影を繋げた。
あとはキリが土の影に少しでも入ってくれれば、それでいい。
シカ「まあ、際どいとこだったけどな」
土の配置から、キリがそこを通る確率の方が高かっただろうが、もし影に少しも入らなければ、ただ大量のチャクラを消費して終わるだけだった。
ぽたぽたと至る所から血を流して、シカマルはキリの目前で立ち止まる。
ぜぇぜぇと息は上がって、身体は砂埃と傷だらけ。どれだけ策を練っても、100パーセントの勝率はなく、常にギリギリの戦いしか出来ない。
それでも。
ぎゅっと、強くキリを抱き寄せた。
シカ「遅くなって悪かった」
キリは無傷で、今自分の腕の中にいるなら、もうそれだけでいい。
かっこいいヒーローの座は、それが向いている誰かにくれてやろう。