第83章 ヒーロー
聞こえた叫び声の中に、少年だけではなくキリの声もあった。
そして、キリを押さえ込んだ時。
キリの腕は、大きく震えていた。
シカ「よく頑張ったな」
本当なら、少年はシカマルがたどり着く前に、瞬殺出来ただろう。
それこそ叫び声を上げる暇もなく。
手なんて出したくなくて、殺したくなくて必死で、抗っているのだろう。
今のキリは、どれだけ苦しんでいるのだろうか。
そんなキリを思うと、この理不尽な状況に、怒りが込み上げて仕方なかった。
シカ「っ……」
払い上げられたキリのクナイが、シカマルの肩を裂いた。
続けて一歩踏み込んだキリから、容赦なく腹部に向けて、横一筋に振るわれたクナイを避ける。
シカ「はぁっはぁっ」
ピッと衣服と薄皮を切ったそこからは、薄っすらと血が滲んだ。
シカ(っ、まずい……)
続く攻防に、キリは無傷。
一方シカマルには、目立つ傷も増えてきた。
生死がかかったひと呼吸も置けないこの戦闘に、神経がすり減っていくのがわかる。
この状況で、もう十数分戦っているだろう。致命傷を避けている事を、誰か褒め称えて欲しいくらいだ。
イチカの言うキリを斬る覚悟は出来ていないが。受けた傷はキリに倍になって返るというのは、それはもう高速で頷ける程に同意出来た。
シカ(肋骨は痛ぇわ、腕は折れるわ、でけぇ傷も出来ちまった)
中でも大きな斬り傷が三つ。小さなものだと数え切れないぐらいにある。
さらに右腕は折れて、肋骨も最初の一本に追加でもう二、三本もっていかれた。
戦闘始めに、キリの刀を奪えた事は功績だった。そうでなければ、本当に死んでいただろう。
シカ(そう上手くはいかねぇか)
こちらも怪我はなく、目が覚めたキリにおいおいと笑ってやるぐらい、スマートに終えたかったのだが、人生そう理想通りに事は運んでくれないようだ。
誰がどう見てもぼろぼろな姿。
自分はどう頑張っても、物語のようなかっこいいヒーローにはなれないらしい。