第83章 ヒーロー
シカ「おい!」
逃げろと言われてどうすればいいのか、完全にパニック状態になっている少年は、びくりと肩を竦ませた。
シカ「友達連れて逃げろ!!」
『!』
『お、俺のことはいいから先にーー』
シカ「お前も男なら、友達置いて逃げんじゃねぇ!」
震える声で精一杯の強がりと優しさを見せる少年の言葉を遮って、シカマルが後押しすれば、残る一人はギュッと唇を固く結んだ。
『うぅ……っ』
立ち竦んでいた少年は意を決して、友人のもとへ駆け寄った。そして肩を貸そうと、友人の腕を取る。
『!』
友人はグッと力を込めて立ち上がろうとしたが、がくりと膝をついた。完全に腰が抜けているらしい。
(こんなに……! っ、僕がなんとかしなきゃ……!)
こんなにも、怖かったのだ。
でもそんな中で、助けることも出来ずにただ見ていただけの自分に、先に逃げてと言ってくれたのだ。
『乗って!』
肩を貸す事を断念して、友人の前に移動する。
友人を背負って立ち上がれば、重みでそのまま前に突っ込んでしまいそうになったが、なんとか堪えた。
『ちゃ、ちゃんと掴んでて!』
『う、うん』
シカ(よし……)
歩くよりも遅い速度で、ふらふらと前に進み出した二人を見て、シカマルはキリに視線を戻す。
二人には、申し訳ない事をした。
怪我はなかったようだが、たまたま居合わせてしまっただけで、何もしていないのに襲われて怖かった事だろう。
シカ(後で、謝りに行くからよ……)
誠心誠意、ちゃんと謝罪をするから。
だから、あまりキリのことを悪く思わないでくれと、強く願った。
もちろん、少年二人には本当に何の非もない。
けれど。
シカ(キリも悪くねぇんだよ)