第83章 ヒーロー
自らの私欲のために、ただの実験体として、キリの体を使って研究を繰り返したのだ。
シカ(辛くねぇわけねーよな)
きっと今も、辛くて痛いはずだ。
シカ(キリ、もうちょっと待っててくれ)
もう済んでしまった過去を変える事は出来ないが〈今〉は。
キリのそばにいる。
シカマルはガッとキリの腕を掴んだ。
キリ「!」
そのまま胸もとを掴み、身を翻してキリを背負い投げようと試みる。
だが、キリの足が地面を離れる前に、手を外されてしまった。
シカ(やっぱ駄目か……でも、いい)
それも想定範囲内だ。シカマルは、キリへと構えをとる。
シカ「来い、キリ」
シカ(絶対俺が止めてやる……!)
互いに向かい合って、しばらく動かずにいる両者を、ふわりと風が撫でた時。
先に踏み込んだのは、キリだった。
クナイを手に、貫くようなキリの攻撃を受け流す。
シカ「いつもとは、逆だな」
いつも、対峙すればキリはシカマルが仕掛けるのを待っている。
そして、シカマルはキリにいつも、ものの見事に攻撃を返されるのだ。
だが。
心臓を目掛けて迫るクナイを受けると同時に、シカマルはキリの首もとに手刀を入れる。
キリ「っ」
その狙いは外されて、手刀はキリの肩にあたって終わった。
しかし、その成功と失敗は、ほんのわずかな差だった。
シカ「ふー……今のは、惜しかったんじゃねぇか」
もうずっと前から見事な返し技を食らっていたが、ここ最近では。
キリに褒められる事が増えた。
あのキリが、防戦にまわる事だってあったのだ。
ここに来るまで、二年近くを要した。