第83章 ヒーロー
第83話 ヒーロー
シカ「キリ!!」
その名前を叫んでも、こちらには脇目も振らずに走るキリを追いかける。
少しずつ、その距離が縮まって、ようやくその腕を掴んだ時。
キリの無機質な表情が見えた。
シカ「キリ……っ!」
キリが振り返ると共に、向かってきた拳を避ければ、続けて上段蹴りが放たれ、屈む事でそれも回避する。
シカ「!」
ひゅっと間合いを詰められて、首を掴まれたシカマルは、そのままギリギリと首を絞められる。
シカ「っ、かはっ」
じっと見つめるキリの瞳が、酷く冷たくて。とても生きた人間のものではなかった。
シカ「くっ……な、んでだよ」
本当に、何故なのだろう。
シカ「なんで、お前が……っ」
泣きそうに、なった。
何故こんな風に望まぬ道を、自分で考える事すら出来ずに、歩まされなければいけないのか。
里へ来たばかりのキリが、どれだけ心に深い傷を負っていたことか。
自分は仲間達に殺されるために生きているのだと、12の歳で語った。
悲しみと後悔。罪悪感に押しつぶされる毎日で、笑いもせず、人と話す事もしないで、自分の幸せを誰より許さずに、たった一人で死を待っていた。
シカ「っ、お前が何したっつーんだよ……!」
絞首の力は更に強まる。シカマルは、滲んだ涙が落ちないように、ギュッと目をつぶった。
真っ直ぐに、生きてきたのだろう。
見ていればわかる。
ナガレの事が好きで、慕っていて、応えたくて。だから苦しい薬物投与だって、必死で耐えてきたのだろう。
それは、簡単な事ではなかったはずだ。
キリは、褒められたくて認められたくて頑張るのではない。
教え子が出来ない事が出来るようになれば、教え子に成長が見えれば、指南者が嬉しく思う事をキリは知っている。
ナガレの喜ぶ姿が見たかったのだ。
育ててくれたナガレに、全力で応えていたのだろう。
シカ(なのに……あんまりじゃねぇか)
そんなキリをナガレは、自分の成果を見るために、兵器のように使用した。