第19章 あの頃の記憶
昨晩もこうして食事を出されたが、キリはもちろん断った。
ヨシノを筆頭に、シカクたちにも食事を強く勧められたが、断固として受け入れなかった。その結果。
食べなくても良い。でも家にいる時は一緒に席について、食べたい時には食べる。という話に落ち着いてしまった。
四人分用意された食事。
無理に食べなくてもいいとは言うものの、こうして毎度提供されては気が重くなる。
キリの分はシカマルとシカクが残すことなくたいらげているが、キリは何よりもこの時間が苦痛だった。
そこではその日のことや、これからのこと、これまでのこと、そんな他愛のない話が繰り広げられて。基本的には三人が話しているのだが、稀にキリにも話題がふられることがある。
それを適当に受け流し、ただただこれが終わるのを待つ。
なんとも居心地の悪いこの時間は、普段よりも時の流れが非常に長く感じられた。
これがこれから、日に何度もあるのだと思うと本当に気が滅入るようだった。
シカク、ヨシノ、シカマル。
三人は、おそらく人が良いのだろう。ただキリはそんなものを少しだって求めていないのだ。
この人達が作り出すあたたかい空気に、キリの胸はぎしぎしときしんだ。
食事を終えて、シカマル達は「ごちそーさん」と手を合わせる。
シカク「薬の時間だな。キリ、お前も来るか?」
そう言って席を立ったシカクとシカマルの後にキリも続く。
昨晩も行った、居間から見えるところにある一室。
中へ足を踏み入れれば、相変わらずつぶらな瞳を向けてくる子鹿が、ぴるぴると小さな尻尾を振ってやって来た。
頭をなでれば、いつも気持ち良さそうに目を細めるため、ついつい手が伸びてしまう。