第82章 親友
はぁ、と一度息をついたイチカは、キリを見て、少々顔を歪ませた。
イチカ(はぁ、疲れる)
後ろを気にしながらの戦闘は、こんなにも疲労を与えてくるものか。
いつも、キリに後ろを任せて、前だけに集中していたそれが、どれだけ有難いことかを思い知る。
普段の施設での手合わせとはまるで違う。生死をかけた戦いでそれをする今は、神経がすり減っていくようだった。
イチカ(でも、あいつがいるから)
そう思って視線を送れば、シカマルは仲間の援護に入ったばかりだった。
イチカ(……やるじゃない)
思っていたよりもずっと、シカマルの働きが大きいのだ。
シカマルが、イチカたちに穴を作らせないように動いてくれている。だからこうして、最前線にいるイチカにも、息をつく暇がある。
ナガレ(……煩わしいな)
ナガレの余裕のある笑みは、なりを潜めていた。スムーズに事が進まぬ事に、苛立ちが募っているようだ。
キンッとイチカの小刀と、ナガレのクナイが合わさって、二人の視線は混じった。
イチカ「大人しく捕まった方が身の為よ」
ナガレ「……何?」
イチカ「もうすぐ、木ノ葉の人たちが来るはず。それに今頃、あの門番達の不正も正されてるんじゃないかしら」
ここへ来るまでに、少々言伝をしておいた。
それは簡易的な文ではあったが、それでも木ノ葉がよほど平和ボケをしていない限りは、何かしらの対応はするだろう。
ナガレ「本当に、君たち親子は余計な事をしてくれる」
イチカ「っ……その口で、私の家族を語んじゃないわよ!!!」
仮面を被って、何人も死に追いやったイカれた研究者に、命がけで子どもを守った父と兄を蔑む資格などありはしない。
イチカの攻撃の勢いを増した時、鈴の音が聞こえた。
ナガレ「動くな」
イチカ「!」
その音と声に、反応を示した樹の里の顔ぶれの動きが止まる。
シカ「おいっ、何してんだよ!?」
慌ててそのフォローに入ったシカマルの声で、我に返ったイチカは一旦ナガレと距離を取った。
イチカ(今、のは……)