第82章 親友
薬を打たれてその後、キリがどのように変化したか。その状況はもちろん説明済みで、シカマルが頷いてみせれば、イチカは苛立ちを隠そうともせずに口を開いた。
イチカ「そのキリ相手に、無傷で済まそうっての? ちょっと見ない内に、ずいぶん自信過剰になったじゃない」
シカ「なっ……」
イチカ「はぁー……いい? ここを出る前に、キリを斬る覚悟をしなさい。キリが敵意を持って向かってくるのに、そんな甘い考えでいたら死ぬわよ」
「みんなもね」と、イチカが仲間たちへ目配せをすれば、この作戦会議が始まった時にはもう心を固めていたのだろう。それぞれが力強く頷いた。
シカ「っ……」
イチカ「殴って気絶させられれば上出来ね。無理なら、腕折るなりなんなりしてキリの動きを止めるのよ」
あ、いやそれならば足を折る方が効率がいいから足がいいと、そんな物騒なことをイチカは親友に語る。
イチカ「あとみんな。キリと戦闘になったら、怪我をしないで」
大きく息を吸った後に、ゆっくりと告げた重圧を感じるその言葉。
イチカ「その傷は全部、倍になってキリに返る」
その傷が大きければ大きいほど、深ければ深いほどに、キリの心にまた大きな傷をつけることになる。
それは倍などでは済まないかもしれない。
それに対して、苦い顔を見せる仲間たちは、これまでとは違って力強く頷かずに、言葉を濁した。
『まあ、そりゃ、出来たらそれがいいけどさ』
『キリ姉相手に、私……出来るかな』
『俺、キリに組手で勝った事ねぇ』
うーんと、弱気な発言をする仲間たちに、イチカは勢いよく拳を振り上げた。
イチカ「あんた達、もし死んだりしたら……殺すわよ」
そのまま地面に叩きつけた拳は、なんの罪もない地面を叩き割り、あたりにはその粉塵が舞った。
「死んだら絶対に許さない」と、漏れなく全員の目を見てそう言ったイチカに、一同はぞわりと全身に鳥肌が立つ。