第82章 親友
ふらふらとおぼつかない足取りで、木の棒を支えにしながら走る人物。
それは紛れもなく以前、キリのことを頼んだあの男、奈良シカマルの姿だった。
イチカ「!!」
その姿を視界にとらえてすぐに、異変に気付く。
イチカ(この血、まさかあいつの……!)
シカマルの後に、ぼたぼたと残されていく血痕。
その血液量で、シカマルがかなりの深手を負っていることが簡単に推測出来て、イチカは慌てて地面を蹴った。
シカ「!!」
突然、背後から身体を引っ張られたシカマル。しまったと、振り向くと同時に後ろにいる人物へ肘打ちをお見舞いしてやれば、その肘はしっかりとガードされる。
イチカ「っ、危ないわね」
シカマルの肘打ちは咄嗟にガードは出来たものの、反応速度と重さが以前よりも上がっていて、びりびりと響く痛みに、イチカは顔を歪ませた。
シカ「!? お前っ……なんで」
思わぬところでのイチカとの再会に、目をまんまるにしているシカマルの服に、イチカは手をかけた。
シカ「うお!?」
そのままバッと、血にまみれた胸まで服をめくってやれば、やはりそこには大きな傷がある。それはたった今、出来たばかりのようだった。
いきなり何すんだと、服を戻したシカマルに、イチカはきゅっと口を結んだ。
イチカ「その傷……ナガレ、さんが?」
シカ「いや、違……いや、そうだな」
あいつのせいだと言うが、ハッキリしないシカマルの物言いにイチカは眉を寄せた。
イチカ「ナガレさんじゃないの?」
シカ「あの野郎の指示で、キリにやられた」
イチカ(!! まさか、また……っ)
ここへ来るまでに考えていた最悪のシナリオ通りに、事は進んでいるのかもしれない。そう思えばぞわりと背中に冷たいものが走った。
そして、イチカはくるりと振り返り、仲間へ合図を送る。
イチカ「大丈夫、出て来て味方よ。怪我をしてるから、治療をお願い」
イチカの合図と共に、様子を窺って姿を隠していた仲間たちが現れる。