第82章 親友
凄惨な事件が起きた当初は反響が大きかったが、時と共にゆっくりと落ち着きを見せて、ようやく。
ようやくみんなは、殺人鬼なんて呼び方をされるキリじゃなくて、あの優しくてふわりと笑うキリを思い出してくれるようになった。
ばたばたと慌ただしく、キリを助けるためにと準備を整えていくみんなの姿に、じわりとイチカの瞳に涙が滲む。
キリの帰る場所を作ってあげたかった。
ここはキリの生まれ育った故郷なのだと。ここにキリの帰りを待つ者が確かにいるのだと。そう言えるだけの場所を。
キリのせいではないのに、奪われたそれを取り戻したくて仕方なくて、がむしゃらに過ごした毎日だった。
イチカは、奈良シカマルのようにキリのそばで支えてはあげれないけれど。
これは、イチカにしか出来ないことだとそう思った。
イチカも、キリを責めてしまった過去がある。失くしたものの大きさが痛いほどにわかるから、みんなの気持ちはよく理解出来た。
でも、十二年間。
キリと一緒に生きて、毎日顔を合わせて笑って助け合って過ごした。
その日々は確かにあったから。
その十二年を、たった一日で、あの日だけでどうか全てを無くしてしまわないでと、みんなに何度だって語りかけた。
キリを庇うイチカのことを、良く思わない者はたくさんいた。嫌な顔をされることなんて、数えられないぐらいにあった。
あの日、犠牲者が出た親族から「お前も死ね」と。そんな言葉を、憎しみを込めた瞳と共に向けられた事もあった。
父と兄が眠る墓に、悪意に満ちた悪戯をされた。「ごめんなさい」と、父達にひたすら謝罪を告げて、泣きながら荒らされた墓を直した日もある。
村のみんなと何度も揉めて、時には暴力に訴えられて、これだけの月日を要して、ようやくここまで。
ーーキリを取り戻せた。
ぽたりと、イチカの瞳から一筋、涙が伝った。