第82章 親友
施設の部屋に駆け込んで、突然荷物を詰め込むイチカの様子に、仲間たちは一体どうしたのだと疑問符を浮かべていた。
【木ノ葉へ行くわ】
「意味がわからない」「落ち着け」と、引き止めるみんなに苛立ちすら覚えて、イチカは怒鳴るようにしてその制止を振り払った。
【キリが危ないのよ!! 助けに行かないとっ】
こうしている間にも、キリに何かあったら。もし、取り返しのつかないことになってしまったら。
そう思えば思うほど、じりじりとした焦りと苛立ちがこみ上げる。
なぜ危ないのか、助けるとはどういうことだと。そんな至極真っ当な質問を、今は受けている余裕などなくて、煩わしくて仕方ない。
そんな事を聞かれてもイチカだって、説明出来るだけの証拠を掴めていない。
行方知らずのナガレが、キリのところへ向かった可能性がある。だが、強い根拠となる部分は未だ不明確だと。
そのままにそう告げれば、困惑して戸惑うみんなを掻き分けるようにして、イチカは施設の外を目指した。
『イチカ、待て』
【離して!! 私は木ノ葉に行かないとーー】
『俺も行く』
【!】
仲間は振り払おうとするイチカの手をぐっと握って、イチカの言葉を遮った。
『よくわからねぇけど、キリを助けに行くんだろ?』
まさか同行を求められるとは思ってもいなくて、目を丸くしたイチカがこくりと頷けば、力強い眼差しを返される。
『なら、俺も行く。すぐに準備するから待て』
【行くって、でも】
本当に、何か確信めいたものがあるわけでもなく、ただ嫌な予感がするから。
たったそれだけの理由で、木ノ葉へ行くそれに付き合わせることは、はたして正解なのかと言われれば、それは否だろう。
里の外へ出るには、それなりの手続きを要して、それを破ると罰則もある。
だから自分一人で行くと、そう言おうとする前に、新たな志願者が現れた。
『私も行く!』
『イチカ姉、私も連れてって!』
【!!】
そんな声が何人も上がって、イチカは喉の奥がキュッと締め付けられる。
キリが里を出て、もう二年弱の時が経った。