第81章 迎え
イチカ「研究員の死は、ナガレさんによるもの」
当時関わった者と、純粋にイチカたちを愛してくれていた人は、イチカたちを研究対象としていたナガレにとって邪魔にしかならない。
そして、今回の事で最も邪魔になるもの、それは。
イチカ「キリの両親に、トドメを刺したのもナガレさんでしょう」
キリがこんな風に暴走した後、キリを愛していたあの二人が、施設での生活を続けさせるわけがない。
全力を尽くして、キリを守ってくれたはず。
親という何より強いキリの味方が、生存していては困るのだ。
そんな二人の体には、致命傷を少し外した傷が一つと、もう一つ。
即死を免れない傷跡が残されていたと聞いた。
ナガレ「……驚いたな。ちょろちょろと何か嗅ぎ回っているのは知ってたけど、あのイチカがここまで来るとはね」
頭脳明晰、そんな人種ではなかったイチカを指しての皮肉が向けられる。
イチカ(っ………)
もう否定をやめたナガレに、イチカの心臓は掴まれたかのように痛む。
そのどれも、推測の域を超えなくて、信じたくないものばかりだったから。
出来れば、その推測は頭の良くないイチカが考えたあさっての方向の答えで、まるで見当違いであることを、願った。
ナガレ「馬鹿正直な君に、私が疑われるとは思わなかったなぁ」
ふと笑みを浮かべるナガレに、その願いは虚しく散ってしまったことを悟る。
実のところ、ナガレを疑ったというのは少し違う。
ナガレに不信感などを抱いたことは、これまで一切なかった。ナガレは施設みんなの優しい母であり父でもあった。
イチカは、ナガレに対して確固たる好意を寄せていたのだ。
だが。
イチカ「考えられる人が他にいなかった。悪事を働いたのはキリか、その他。その二択で、私がキリを選ぶことはあり得ない」