第81章 迎え
キリに注射を打った人、その日の調合を行なった人。
そして、施設のみんなを我が子のように可愛がってくれていた研究員の人。
イチカ(……自分にとって、不利益なものを残さないように)
イチカ「ナガレさん、あなたが殺したんでしょう?」
シカ「!!」
少しの静寂が辺りを包んだ後、ナガレは一人口角を上げる。
ナガレ「……それで?」
面白いとでもいうように、イチカへと続きを促した。
イチカ「あの日の死傷者は17人。でも死亡の原因が本当にキリだったのは……2人だけじゃないの?」
確かに、キリが被害を与えた相手というのは何十人にも及んだ。
イチカ「キリの攻撃は、致命傷にはなってなかった。どれも、その怪我をもとに出血多量で死に至った」
ナガレ「なら結果、キリが手をかけたことに変わりはーー」
イチカ「あの時! 適切な治療を行わずに、出血多量にさせるように仕向けた人達がいた」
ナガレの言葉を遮って、発するイチカの声は強くて、重い。
イチカ「そのどれもがあなたの指示で……っ、そして馬鹿みたいに従った私たちのせいで、助けられなかった」
あの日の被害は、キリだけの責任じゃなかったのだ。
おびただしい量の薬を打たれたキリは、どれだけ苦しくて、痛かったことだろう。
そんな中で致命傷を避けたキリの精一杯の抵抗を、イチカたちは何一つ汲んであげられなかった。
ナガレ「私が指示したなんて、どうしてそう思う?」
イチカ「証拠は、ないわ。でも……」
イチカは目の前で伏せている忍の面を、取り上げる。
すると、樹の里の仲間たちにざわめきが広がった。
『あの時の……!』
『じゃあ本当に、ナガレさんが』
『キリ姉っ、私っ……!!」
イチカ「みんなが、信じるには充分みたい」
その素顔は忘れもしない、あの日の事態収束時、指示を出していた人物の一人だった。