第81章 迎え
確かに普段から、キリへの投薬量は、人と比べて非常に多かった。
少しずつ増えていく薬量に、仮にキリが耐えられなくなったとしよう。
その結果の容量越えは、キリが何時間にも渡り、完全に理性を飛ばして殺戮を続けるほどなのかと言われれば、絶対に違うと即答出来る。
薬の容量越えは、いわば心の弱さから来ることが多い。
その痛みと苦しみにもう耐えられないと、さじを投げれば起こり得るのだ。
なら、イチカは知っている。
キリの心の強さがどれほどか。
イチカ(キリより強い子なんて、今まで見たことないわよ)
だから、それが〈いつものキリ〉ならば絶対に起こらない。あの日のキリは、いつものキリではなかった。
いつものキリでは、いられなかったのだ。
だから、調べた。あの日の出来事を。
どうしてキリがそんな事になったのか。
ナガレ「私が騙すなんて、そんなはずないだろう?」
優しくにこりと笑うナガレの隣で、小刻みな呼吸を繰り返し、身体を震わせているキリ。
異常をきたしている親友の姿を見て、イチカは煮え繰り返るような怒りを覚える。
イチカ「じゃあ、キリはなんでそんな顔してるのよ」
虚ろな瞳で、人形のように表情を失ったキリをつくったのは、他でもないお前だろうと、憤りが湧いて出る。
ナガレ「キリを迎えに来たんだよ。少し薬も打ったけどね」
人の感情を左右させるぐらいの薬を使用しておいて、何でもないことのように語るこの人のそばに、イチカたちはずっと居たのだと思うと、背筋が粟立った。
以前、キリに会いに来て、樹の里へ戻ったあの日から、ずっと調査していた。
それでも。
ナガレ「調べて、何かわかったかい?」
ふわりと笑うナガレに、イチカはぐっとこぶしを握った。
そう。調べても調べても、その原因や証拠となるものが出てこなかったのだ。
その日、キリへ処方された薬の量は普段と変わらぬ成分と調合方法で、記録されていた。
イチカ「あの日。ソレに関わっていた人は、みんな死んでたわ」