第19章 あの頃の記憶
キリが目を開けると、そこには見慣れない景色が広がっていた。
上体を起こして、疲れのとれていない体を一度大きく伸ばす。
シカクの命令によって、奈良家で一夜を過ごした。
昨晩は同じ家に自分以外の人がいることや、同じ家のどこかに人の気配があること、そんな感覚が久しくて。落ち着くことが出来ずに朝を迎えてしまった。
ギリッとキリは歯噛みをする。
昨日、何者かによって突然襲われた。そこへタイミング悪く、新たな任務の話をするべくシカクがやってきた。
そして、シカクに何事かと事情を聞かれた結果、襲った犯人が見つかるまでは安全の為に奈良家で生活をしろとの命が下ったのだ。
キリ(あの時、上手く誤魔化せていれば……)
キリが襲われたのは、あれで二度目である。
10日ほど前にも一度、里内を歩いていたら人気のないところで襲撃された。
すんでのところで人の気配に気付いたため、その時は瞬時に撃退し、それから外を歩く時はいつも以上に気を張っていたのだが。
まさか、真っ昼間から家の中にまで入って来るとは思っておらず、あの時は完全に油断していた。
自宅ということもあり、愛用の刀も武器ひとつ手元に置いておらず、またうとうとと船をこいでいた時であったため、対応も遅れることになった。
キリ(でも本当に……タイミングが悪過ぎた)
シカクが現れたのは、最も良くない場面だった。登場があとほんの少し遅ければ、間違いなくキリは反撃に出ていたのだ。
ただ、そのどれもが監視も消えて、平和ぼけしていた己の失態に他ならない。
しかし次から、家の中であれキリが常に気を配っていれば、それで済む話だ。
何も担当上忍の手を煩わせなければいけない話ではない。