第81章 迎え
キリを樹の里から奪い去り、そして何度も奪還の邪魔をされた事に、ナガレは酷く腹を立てていた。
確実に、ナガレは今から、そんな木ノ葉へ復讐を実行するつもりだ。
それも〈キリ〉を使って。
ギリッとシカマルは、強く歯を噛み締めた。
シカマルを生かしてくれたキリ。
今はまだ水面下で残っているその理性。それが完全に消えてしまうまでに、後どれほどの時間が残されているのか。
その僅かな理性だって、本当にギリギリのところで絞り出してくれていたのではないか。
樹の里の話を聞けば、キリは以前の暴走時もしっかりと記憶が残っているのがわかる。
またキリが木ノ葉で誰かを殺めてしまえば、我に返ったキリが何を思うのか。
それを想像するだけで胸がきしんだ。
キリの手で、傷付き、命を落とす同郷の姿を見ることも。キリが傷付き、落ちていく姿を見ることも、死んでもごめんだ。
そのどちらもが傷だらけになる中で、あのイカれた研究者だけが一人笑っているなんて、そんな馬鹿げた話があるか。
シカ「っそんな事、させるわけねーだろうが!!」
ガッと膝を立てたシカマルは、ふらつく体を無理やり起こして立ち上がる。
シカ「っ……」
力が加わった事で、胸から血が溢れ出したが、今はそんな瑣末なことはどうでもいい。
近頃のキリは穏やかで、そしてくるくると表情を変えるようになった。
そんなキリの無機質な表情を、久しぶりに見た。
いやむしろ、キリが木ノ葉に来たばかりの表情よりも、先ほどのキリはずっと酷いものだった。
シカ(キリ……!)
キリはその光の無い瞳から、涙を流していた。
それは、紛れもないキリの限界で。助けてを言えないキリのSOS。
重たい体を引き摺るようにして、シカマルはキリ達が向かった方角へと走り出した。
シカ「すぐに助ける……!!」