第81章 迎え
シカ「っ!」
それは、ほんの一呼吸の出来事だった。
クナイは、シカマルの左胸に刺さり、それはずるりと引き抜かれた。
そして間髪入れずに、キリはシカマルの足をへし折る勢いで左の下段蹴りを繰り出し、シカマルの体制が傾いた時。
キリはシカマルの頭を掴み、後頭部から地面へと叩きつけた。
シカ「っ、~っ」
その衝撃に、声にならない声が漏れて、シカマルの身体は小刻みな痙攣を繰り返す。
そこへ、ぱちぱちと拍手音が聞こえる。
ナガレ「素晴らしい。良い出来だ」
根元まで血のついたキリのクナイに視線を向けて、ナガレはにこりと笑みを見せた。
ナガレ「衰えていないのが確認出来て、凄く嬉しいよ」
くいっと袖で口から流れていた血を拭ったナガレは、スタスタとシカマルへ歩を進める。
そして、先ほど奪われたポーチを手に取ると、笑いの混じるナガレの囁きが残された。
ナガレ「残念だったね。狙いは悪くないが、この中には中和薬は入っていない」
ナガレはポンポンとポーチの砂埃を払って、再びそれを装着する。
ナガレ「そもそも、今回の薬には中和薬なんて用意してないんだ。私が配分を誤る事はないし、多少効き目が強かろうがキリは死にはしないだろうからね」
左胸から多量の血を流して、痙攣を起こしているシカマルを嘲笑し、ナガレはくるりとキリと向かいあった。
ナガレ「さぁ、行こうかキリ。私の物を奪った盗人達に、お礼をしなくてはね」
あの銀髪にも、番犬にも、随分と手を焼かされたものだ。
そのせいで、ナガレはどれだけの時間をロスして、作業が滞ったことか。
ナガレ「少し先に、私の手駒を待たせてある。まずはそこと合流しよう。キリ、付いて来なさい」
身の程も知らずに、ナガレの物に手を出した彼らに、挨拶をしてあげなくてはいけない。
キリとナガレの姿が消えて、しばらく。
気配を感じなくなったところで、シカマルは大きく息を吸い込んだ。
シカ「かはっ、ごほっごほ、はっごほっ」
肺に空気が触れた事で、シカマルは激しくむせ返り、上体を起こして目を開ければ、ぐらぐらと揺れる視界に堪らず嘔吐する。