第81章 迎え
考え込むようにして、ぶつぶつとナガレは独りごちた。
ナガレ「ただでさえ、こちらの尻尾を掴もうと厄介な探りを入れてくる人物ではあったけど。頭脳だけではなく、戦いの面でも優秀だなんて本当に素晴らしい」
そんなナガレにシカマルは顔を歪めながらも、ナガレの腰もとにあるポーチを奪い取る。
先ほど、キリへ打った注射器は、おそらくここから取り出されていた。
それならば、中和薬や薬の類はここへしまわれているのではないか。
ナガレ「いい動きだね。……でも、番犬になるにはまだ足りない」
バッとポーチをめくり上げたシカマルに、ナガレは口角を上げた。
ナガレ「……君はいつまでそうしてるつもりかな」
スゥッと息を吸い込んで、低くなったナガレの声が、響いた。
ナガレ「キリ、来なさい」
キリ「!」
その声は、キリが幼き頃からずっと聞いていたもので。
体の痛みとか、今の状況だとか、そんなものを考えるよりも先に勝手に体が動いていた。
そうして突如、シカマルとナガレの間へと現れたキリは、シカマルに向かって拳を振りかぶる。
シカ「!」
そのままキリの拳は振り抜かれ、しまったと思う前にシカマルの体は宙を浮いて、後退を強制される。
シカ(まずいっ)
ナガレとの距離が出来たことで、捕らえている影の拘束力が低下する。
あの近距離だったからこそ、精度を保てていたのだ。
即座にチャクラを送り、地に足が着いた瞬間、再びナガレとの距離を詰めようと足を踏み出したが。
それよりも先に、笑みを浮かべたナガレの右腕が動いた。その手にあるのは、紐がついた小さな鈴。
リンッと愛らしい鈴の音が鳴る。
キリ「あ……」
その音と共に、ドクンッと大きく鳴った鼓動。キリは、何度この鈴の音を聞いて育ったのだろうか。
キリ「はぁ、はぁっナガレさん、どうして……」
ぽたりとキリの瞳からは、涙が落ちる。