第81章 迎え
先ほどからナガレに、激しい怒りが湧いている。
ふーっと荒く息を吐いて、シカマルは奥歯を強く噛みしめるが、ふつふつと怒りは無限に込み上げた。
キリの痛みは。キリの苦しみは。
全てナガレが作り上げたものだったのだ。
キリはまだアカデミーにいるような小さな身体と年齢で、どれだけの痛みを与えられてきたのだろう。
そして、キリは犯した罪をこれからも背負って生きていくのだ。
キリが身動きが取れなくなるぐらい、重過ぎる枷を与えた張本人が、こんな風に生きているなんて、許せるはずがないではないか。
シカ(落ち着け! 今はキリが最優先だ)
今すぐにでも元の顔がわからなくなるぐらいボコボコに殴ってやりたいが、今はキリの中和薬を手に入れる事が先だ。
顎をめがけて振り抜いた拳は、半身をひねるだけで躱された。ナガレが背を向けた方向から足を払うように下段蹴りを放てば、それはただ空を切って終わる。
シカマルの蹴りを、少し後方へ飛び退いて回避したナガレは、キリを一瞥してからシカマルへ視線を戻した。
ナガレ「その体術……師は、キリかな」
続けざまに、仕掛けるシカマルはクナイを抜いて、ナガレとの距離を詰める。
同じように、小刀を取り出したナガレは、キンキンと金属音を散らしながらシカマルのクナイを受ければ、面白いと口角を上げた。
ナガレ「悪くない。どうやら、キリはこの里でも随分優秀だったみたいだね」
あしらうように距離を置いたナガレに、印を組んで影を伸ばせば、シカマルの影はナガレの影を捕らえた。
ナガレ「へぇ。奈良……シカマルと言ったね。面白い術を使う」
シカ(捕まえた、早く中和薬をキリに……!)
ちらりとキリを見れば、先ほどよりも呼吸が荒く、その瞳も虚ろになってきている。一刻も早い処置が必要だろう。