第81章 迎え
重なるようにして、キリを抱きしめる二人の腕はすでに、だらりと下へ垂れていて、もうキリを妨げる事はない。
それでも、キリはその場にとどまり続けた。
発狂しそうな程に込み上げ続ける殺人衝動に耐えて、ガタガタと震える身体。
奥歯を噛み締め過ぎて、口から血が垂れようが、爪がめり込み過ぎて、ぼたぼたと血が手のひらから流れようが、キリは涙と共にその場を動く事はなかった。
そうして、捕縛されたキリが、正常な思考を持って目覚めたのは、翌日の事だ。
…………………………
キリがあの時、止まる事が出来たのは、間違いなく二人のおかげだった。
キリ(ダイチさん、イツキお兄さん……っ)
二人がいなければ、被害はさらに拡大していたはずだ。
それを、今。
キリは、ナガレへと視線を向ける。
キリ(邪魔が、入った……?)
ダイチと、イツキを。イチカの家族を今、邪魔だったとそう言った。
ナガレ「でも……一番計算外だったのは、あの銀髪がキリを奪っていった事だね。ああ、確かはたけカカシと言ったかな」
キリ「はぁっ、はっ」
呼吸が、苦しくなる。身体の中が熱くてたまらない。
キリ「ナガ、レさん」
血液中に刃が巡って、中から裂かれているようなこの激痛。頭が割れるような頭痛と、破裂してしまいそうな程に大きな鼓動。懐かしい、薬物の痛みだった。
もう答えなど出ている問いかけを恐る恐る口にする。
キリ「あの日のことは全て、ナガレさんが……?」
一瞬驚いたような表情をして、ナガレはすぐに声を上げた。
ナガレ「あっはっはっはっは」
可笑しなものでも見るかのように、大声で笑うナガレは、涙を拭いながらキリを見下ろした。
ナガレ「ごめんごめん。ははっ、聡いキリからまさかそんな事を言われるとは思っていなくて」
「もう分かっているんだろう?」と言って、おさまりきらない笑いを残しながら、ナガレは大きく頷いた。
ナガレ「そうだよ」