第81章 迎え
一度深く、キリが頭を下げれば、それをじっと見つめるナガレの姿があった。
ナガレ「君を、誰よりも強く出来るのは私しかいない」
それは、自分以外にはなし得ない事だとナガレは告げる。
キリ「!」
ナガレ「離れていたし、少し混乱してるみたいだね。でもそれもまたすぐにわかる」
ぐいっと無理やりに引っ張り上げられたキリは、するりとシカマルの手から離れた。
ナガレ「キリ、帰ろう」
キリ「待って下さい! 話を……っ」
ぎゅっと、ナガレに力強く握られた手が痛む。
でもそれ以上に、ナガレのその瞳がキリの言葉を詰まらせた。
ナガレ「聞きなさいキリ、これは命令だ」
キリ「……っ」
その声に、キリの体に無意識に力が入った。
施設において、ナガレは最高権力者であり、幼き頃からキリ達が逆らえる対象ではそもそもないのだ。
そう身体を強張らせたキリに、ふとナガレは眉を下げて微笑んだ。
ナガレ「ほら、キリ君は悪い子ではないだろう? それとも……私の命令が聞けないか」
キリ「あ……」
背中には嫌な汗が流れて、ただ言葉にならない声が漏れる。
ふるふると首を横に震わせるキリに、ナガレはにこりと微笑みを浮かべた。
シカ「おい! 待てよあんたさっきからーー」
ナガレ「キリ、おいで」
キリ「!!」
ふわりとナガレに抱きしめられたキリの耳もとで、優しい声が聞こえる。
ナガレ「愛しているよ。私の最愛のモルモット」
キリ「え?」
囁かれた意味を理解する前に、腕にチクリとした痛みを感じて、キリはそこに視線を落とした。
視線の先には、腕に刺さった注射器。
そして、それを刺した張本人のナガレから、薬を打ち込まれるところが見えた。