第81章 迎え
あまり差がでない幼少期を過ぎても、周囲に力負けをする事がない。それどころか、容易くねじ伏せてしまうのだから、たまらない。
まったくこれは、嬉しい異例だとナガレの声に熱が伴った。
ナガレ「本当にキリは誇りだよ」
キリ「私は、そんな……」
熱弁するナガレに、キリは少し眉を下げた。
困ったような照れたような、どちらもを合わせた表情で返答するキリをよそに、ナガレの勢いは止まらない。
ナガレ「謙遜することはない。キリ、君は周りとレベルが違う。見事だとしか言いようがないよ」
「本当に素晴らしい」と、ナガレは生まれたばかりのキリに、初めて薬物投与を行った時の事を思い出す。
その時は近年、人材に恵まれておらず、良い結果が見られないナガレは普段よりも強い薬物を使用した。
本来ならば、新生児に使用すれば危険を伴うが、キリはそれに耐えたのだ。
その時、これは久しぶりに逸材が現れたと、ナガレの心は疼く。
痛みに泣き喚くキリに、あと少しで中和薬を使用しようかというところで、ナガレに衝撃が走った。
ナガレ(………まさか、これは)
キリの泣き声は勢いを弱め始める。信じられないと思いで、様子を見ていれば、ついにキリの涙は止まってしまった。
中和薬を使用する事なく、キリは薬物に耐えたばかりか、乗り越えたのだ。
この奇跡が、どれほど凄いものか、一体何人が理解出来るだろうか。
この時のナガレの感動がどれほどのものだったか、決してわかりはしないだろう。
こんなにも心が震えるのは、後にも先にもキリだけだ。
そこで、ふと現時刻に気付く。
どうやら少しゆっくりし過ぎてしまったらしい。
ふぅ、とひとつ息をついたナガレは、口元に弧を描いた。
ナガレ「さぁ、もう時間もない。キリ、樹の里へ帰ろう」