第81章 迎え
シカ(あーくそっ……)
そう内心でひとつ悪態をこぼした。
シカ(わかんねぇ)
キリの本心が。
キリを諦めるつもりもなければ、離れるつもりは毛頭ない。
それはシカマルの中で、一度だってブレた事のないものだ。
けれども。
以前キリから聞いた返事が、本当にキリの気持ちならば。シカマルのこの感情はキリにとって、迷惑でしかない。
身内のような大切な存在から、応えられない好意を寄せられても、困るだけだろう。
シカマルの周囲が押せとそう言うように、それが実現出来ないわけではないし、自分だって可能ならばそうしたい。
シカ(でもそれがキリにとっちゃ……)
悩ませるものにしかならないのなら。そう考えると、どうしても足踏みをしてしまう。
シカ.キリ(はぁ……)
そんな風にお互いに探り合って、距離をつかみかねている二人に、沈黙が訪れる。
以前は、まるで気にならなかった沈黙が、今は少し居心地が悪いのは、きっと気のせいではないのだろう。
この空気が少し息苦しくて、どちらともなく修業の再開を求めて、立ち上がる。
そして、シカマルの少し後に続いて歩くキリのもとに、懐かしい匂いが届いた。
キリ「……!」
風が運んできたその匂いに、キリはピタリと立ち止まる。
『キリ、久しぶりだね』
匂いに続いて、聞こえた懐かしい声に振り返れば、そこには記憶と変わらない姿があった。
『元気そうで良かった』
さらりとした肩下まである黒髪をゆるく一つにくくっている彼は、にこりと柔らかい笑顔を見せる。
『キリ』
その笑顔も、穏やかな声色も、全てがキリが樹の里にいた時のままで、キリの胸に込み上げるものを感じた。
『会いにきたよ』
キリ「ナガ、レさん……っ」