第80章 選んだもの
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キリ「ずずっ………」
もうとっくに、昼を通り越してようやく気持ちが落ち着いた頃。
キリは昨晩の会話を思い出していた。
昨晩、ヨシノとシカクと三人での食事を終えたあと。少しだけ、シカクと話をした。
シカク「キリ悪かったな」
シカマルのせいで、あんな大ごとになっちまったなと、苦笑いを見せるシカク。
シカク「黙って自分の気持ち押さえることが、相手にとって思いやりになるとは限らねぇぞ」
キリ「!」
シカク「あいつも、好きな女一人受け止めるぐらいの度量はある」
「なんてったって、俺の息子だからな」と、軽快な笑い声をあげるシカクに、キリは困り顔を浮かべた。
キリ「シカクさん。私の気持ちも気付いてたんですね」
シカク「ははっ、まぁな。どれだけ一緒に居ると思ってんだ」
さらに、困り顔を濃くしたキリに、シカクはポンポンとキリの頭をなでた。
シカク「色々考えて一人で身動き取れなくなる前に、飛び込んでみろ」
そう言って、柔らかに笑うシカクはやはり親子で。そこにシカマルの影も見える。
キリ「……一度亡くせば、もうどれだけ後悔しても返って来ません」
死ぬほど悔いて、死ぬほど謝罪を繰り返したところで、それは取り返せるものではないと、もう痛いほど思い知った。
シカク(っ……と、これ以上突けねぇところで返されちまったな)
つい先日、キリが原因となり、実際に生死を彷徨い生還した事が奇跡な状況に陥ったシカクには、それ以上の援護射撃が不可能となり、苦笑する。
そんなシカクに、おやすみの挨拶を告げてキリは自室へと戻った。
これが正解だったと、思える日がきっと来る。
そう自分に、言い聞かせていた。