第80章 選んだもの
あの時、真っ赤になっていたキリのあの表情は、困っているようではあったが、それよりももっと別の感情があったように思う。
シカマルと同じ気持ちが、確かにそこに見えたのだ。
キリ「それは、さっきも言ったけど私はあなたを大切に思ってる。嫌いだと言ってるわけじゃないわ。あそこまで言って貰えて、照れない方が無理な話でしょう」
また突然の事で、なんの心構えもなかったからと。
本当と嘘を織り交ぜて吐く言葉は、果たしてきちんと違和感なく言えているのだろうか。
シカ「……そう、かよ」
確かめるように、今までずっと視線をキリから逸らす事のなかったシカマルが、初めて、その視線を落とした。
シカ「それでも、俺の気持ちは変わらねぇ」
小さく紡がれたその言葉には、気づかないフリをする。
その後、話を終えた二人は、一時解散となった。
今度は、その場を立ち去ったのはシカマルで。その場に一人残ったキリの頬を、風が撫でていく。
キリ「……っ」
さようなら。
これで、良かった。
これで、良かったのだ。
キリはシカマルの去る方角をいつまでも見つめていた。
キリ「!」
先ほどシカマルに告げた言葉。それは紛れもない自分で決めた事なのに、何故か溢れ出てきた涙で、視界はぼやけた。
歪んだ視界が、このままグラグラと崩れて落ちてはくれないだろうかなんて、馬鹿な考えが頭に浮かんで自嘲する。