第80章 選んだもの
キリ(……あなたが好き)
私も本当は好きなのだと、溢れかえっているその言葉達は、樹の里の脳裏にこびりついて離れないあの凄惨な光景が。命を落としたフミの最期が。そして、つい先日生死を彷徨ったシカクのあの姿が、簡単に止めてくれる。
だから、真っ直ぐに飾らない想いを伝えてくれるシカマルに、嘘をつく。
キリ「ごめんなさい。私にそういった気持ちは少しもないわ」
キリ(本当はずっと好きだった)
シカ「それが、お前の本当の気持ちか?」
本当は何度も何度も何度も何度も、あなたが好きだと思ってた。
でも、そうだろう。
仮に、自分も好きだとその手を取ったとして。
いつ狙われるかどうかわからない里外になんて、とても一緒にいけない。
里内でだって、完全に安全とは言えないのだ。
そんな幸せがあるものか。
キリがそうなるのは、自分が犯した罪なのだから当然の事だが、それにシカマルを巻き込んでいいわけがないだろう。
今ここでその手をとっても、シカマルが悪いわけではないのに、シカマルの彼女だと胸を張れない。
キリ(大好き……)
たくさん貰ったあたたかなものたちを、こんな形でしか返せない事が酷く心苦しい。
もっと、綺麗に生きてこられたら、その手も素直に取れたのだろうか。
キリ「シカクさんや、ヨシノさんと同じように大切に思ってる。だから、好きだと言われるのは……とても困るわ」
シカ「……っ」
傷付いたような表情を見せたシカマルに、この時、自分はどんな顔をして言葉を吐いていたのだろうか。
シカ「……俺が昨日、好きだっつった時のお前を見たら、ただ迷惑って風には見えなかったんだけどよ。それは、俺のただの勘違いか?」