第80章 選んだもの
カカシ「キリの考えもよくわかるけどね。それでも、俺はキリとシカマルは一緒にいて欲しいと思うよ」
キリ「……」
眉を下げて微笑むキリに苦笑して、カカシはそろそろ誰かに気付かれそうだと、キリにもう行くように促した。
その後は、ひとまず奈良家へ帰ると自室へと引きこもった。
そして、いの達に捕まったらしいシカマルは、幸いにも夜遅くに帰宅して、その日の内にもう一度シカマルと顔を合わせる事はなかった。
日付が変わったかどうか。
それぐらいの時間に帰宅したシカマルが、解放されるまでにどれほど大変だったのかが想像出来て、お疲れ様でしたと心の中で落とす。
キリ「……!」
一度、部屋の前で立ち止まったシカマルに、キリは息を潜めて布団にくるまり、ドキドキと胸を鳴らしていたが、少しの間そうしていたシカマルは、おそらく時間帯を考慮してだったのだろう。
何も言わずに、パタリと隣の自室へと、入っていった。
キリ「……っはぁ」
無意識のうちに、止めていた息を吐いて、キリはうるさい心音を押さえるように手を当てた。
そして今までの色々な事が、頭に浮かぶ。
シカマルと一緒に過ごした時間が思い返される。
キリが、シカマルへの想いを募らせている時、シカマルも同じように想っていてくれたのだと思えば、幸せな気持ちが胸に波紋を広げていった。
キリ(……私、随分酷いことを……)
幸せな想いと共に、過去のキリの行いを思い出して、キリは顔を青くさせる。
キリは何度、シカマルを拒絶しただろうか。
歩み寄ってくれたシカマルの手を、何度払ったことだろう。
その度に、キリはきっとシカマルを傷付けていた。
それでも、こんな自分を一度たりとも見限ることなく、辛抱強くそばにいてくれた。
振り払ったその手を、何度だって差し伸べて、キリを拾い上げてくれたのだ。
キリ「…っ」
ぎゅうっと胸がしめつけられるように痛む。
キリ「……好き」
今隣の部屋にいる彼に、消えそうな声でそう告げた。