第80章 選んだもの
シカ「さっきの。あんな風にみんなの前で言っちまってよ」
それが、告白のことを指しているのだと気付く。
キリ「言ったというより、叫んでた。驚いたわ」
シカ「っ、悪かったって俺だってな、あんな風に伝えるつもりじゃなかったんだっての」
ごにょごにょと言葉を濁したシカマルに、キリは可笑しそうに笑みを浮かべる。
キリ「驚いたけど……すごく、幸せ」
シカ「!」
そう言って微笑めば、シカマルにぐっと体を抱き寄せられた。
シカ「俺も」
こつんと、お互いのおでこが合わさって、幸せと愛おしさを共有する二人。
シカ「キリ」
名前を呼ばれて、合わせていたおでこを離して顔を上げれば、いつもよりもずっと近くにシカマルがいる。
シカ「好きだ」
近付いて来たその唇に、ひときわ大きな鼓動が鳴って、キリはそっと目を閉じた。
二人分のドクドクとうるさい鼓動が鳴る中で、シカマルとキリの唇がゆっくりと触れ合う。
その直前。
キリは、ぱちりと目を覚ました。
キリ「……なんて夢を……」
その視界に映るのは、もう見慣れた光景になった奈良家にある自室の天井。
のそのそと身体を起こせば、今まで見ていた夢の内容に、キリは内心で頭を抱えた。
さっきまでのシカマルとの甘い甘い夢とは違って、現実はそうではない。
昨日、広場でシカマルから告白をされて、あまりの恥ずかしさにその場から逃げ出してしまった後。
キリはその日の本来の目的を思い出して、説明を聞かなくてはと、広場へと戻った。
しかしながら、広場付近まで来てみたものの、いのやアスマ達から労いの言葉という名の総攻撃を受けているシカマルを見て、キリは思わず足を止めた。
キリ(も、戻り難い……)
逃げ出したこの輪の中に、もう一度入る勇気を今持ち合わせていない。
しかし、私情を挟むわけにはいかないと、広場付近でウロウロと様子を窺っていれば、気付いたシカクがアイコンタクトをくれた。
シカク(キリ、いい、いい。今日はもう先に帰ってろ)