第78章 強行突破
キリ「離して」
ぐっと腕に力を入れたキリの表情は、こちらからは窺えない。
シカ「離さねぇ!」
キリ「どうして、私なんかを……気のせいでしょう」
よりにもよって、何故このような女を選ぶのかと。
この期に及んで、そんな事を言うキリに、シカマルは想いの全てをぶつける。
シカ「わからねぇなら、わかるまで何度でも言ってやるよ。俺はお前が好きだ」
キリ「~っ」
こちらの想いの丈を、なめてもらっては困る。出会ってから今まで、どれだけの想いを心に重ねてきたことか。
キリは知らないのだ。
そして、知らぬというのなら、存分に思い知ってもらおうではないか。
勘違いだなんて言えないほどの、誰にも譲れない想いをこちらだって所持しているのだ。
シカ「最初は……正直、なんでこんな奴をって思った事は、何度もあった」
キリ(……当たり前、でしょう)
なにせ、キリは樹の里で同胞殺しで親殺しなのだから。
きゅっと、キリが奥歯を噛むと、後ろからはため息が聞こえた。
シカ「出会った頃のお前は。話かけても無視するわ、近寄れば叩き潰す勢いで突き放すわ、挨拶すら返さねぇ」
キリ「!」
シカ「どっこにも取り付く島がねぇ完全鉄壁のブリザード女で、いくら距離を縮めたくても縮まらねぇし。お前と仲良くなった姿なんて、まるで想像出来なかったしよ」
キリ「じゃあ、どうして」
シカ「仕方ねぇだろ。それでも、好きになっちまったんだからよ」
ぎゅっと、キリの心臓に痛みが走る。
キリ「あ、あなたは私が何をしたのか、わかってるの」
シカ「わかってる。お前の口から聞いた事は、ひとつ残らず全部覚えてる」
キリ「……っ」
シカ「初めて、守りてぇと思った。お前を支えるのは、他の誰かじゃなくて俺がいい」
もう誰かにそれを託すには、この想いは大きく成長し過ぎてしまった。