第78章 強行突破
シカ(今……)
ざわざわと、周囲は騒がしいはずなのに。
今ここでの会話だけがクリアに聞こえて、その他の声がずっと遠くに感じる。
シカ(今なんつった……?)
キリは今、なんと言ったのか。
シカ(もっと良い人がいる……?)
先ほどから、キリの言葉に傷付き、どんどんヒビが入っていった心。
そして、今。そんな悲しくつらい痛みとは、また別の感情が芽生える。
シカ「どういう事だよ、キリ」
いつもよりも、少しだけ低いシカマルの声が落とされる。
その問いに、キリはどういう事だと言われても、何がだ。とでも言いたげな表情を浮かべていた。
キリ「言葉通り。あなたには、素直で可愛らしい女の子が似合うわ」
キリ(きっと……彼女のような子が)
素直で、いつも一生懸命で、愛らしい医療員を、シカマルの隣に並べて想像すれば、そこには何の違和感もない。
微笑ましいカップル像が出来上がる。
そんな風に思いを馳せているキリは、シカマルの心を上手く感じとる事が出来なくて。
その一方で、悪意のない言葉の刃を振り下ろされたシカマルは、やり切れないこの感情に、ぐっと奥歯を噛んだ。
シカ(なん、だよ……それ)
こんなにも、キリだけを見続けていた。
恋心を自覚したのは、下忍になってからだったが、アカデミーの頃からずっと、キリただ一人だけを好きだった。
それなのに自分は今、その想い人であるキリ本人から、他の女を勧められたのだ。
これほど、むごい仕打ちが他にあるだろうか。
今日、ここへ来るまでの間も、キリと一緒にいる時間が嬉しくて、楽しくて、仕方がなかった。
それなのに。