第78章 強行突破
ぱくりと一口、口に入れた瞬間。
二人は互いに、丸くさせた目を合わせた。
【凄く美味しい】
【うめぇな】
【ちょっとこれ食ってみろ。マジでうめぇ】
【ありがとう。これも食べてみて】
そう言って、皿ごとキリに渡そうと、皿に手をかければ。
スッと目の前に、箸が差し出される。
【!!】
【どうぞ】
俗に言うあーん状態。
すぐに、顔に熱が集まるのがわかったが、こんな機会をみすみす逃すはずもなく。
シカマルは口を開ける。
ひょいっと何事もない顔で、料理を口に入れてくれたキリに、一人意識しまくっている事が恥ずかしい。
だがしかし、それを軽く越える幸福感を得る。
【っ……さんきゅ。……美味い】
火照る顔を、片手で覆いながら、シカマルはちらりと自分の料理に視線を落とした。
【ほ、ほら。お前も食え】
皿に手をかけていたそれを取り止めて、シカマルは自らのメイン料理を箸で掴む。
【ありがとう】
そのまま箸を差し出せば、ぱくりと口に入れたキリに、正直なところお前それは反則だろうと、今日一日果たして保つのか、本気で自分の身を案じもしたものだ。
【美味しい】
【な。うめぇ】
どきどきと、胸を高鳴らせているのは自分だけなのだろうとは、わかっている。
そもそも、キリが何の意識もせずに、こんな事をするようになったのは、確実に家のせいというのか、親父達のせいである。
シカクとヨシノが、すぐにこうしてキリに物を食べさせるため、それがキリの中でも当たり前であるように、刷り込まれていった。
いやはや、まことに良い家訓である。