第77章 後退と前進と
シノ「……俺も検査結果を聞くのに、ついて行ってもいいか」
キリ「私の検査結果を?」
シノ「ああ」
キリ「えっと……?」
今日は重大なものではなく、今から貰う検査結果も、本当にただデータをまとめただけのものだ。
そんな楽しみも面白味もないものに、付き添ってもらう程でもないのだが、一体どんな意図でシノはその考えに至ったのか、理解が追いつかない。
シノ「無理は言わない。駄目ならそう言ってくれ」
キリ「いえ、それは構わないけど」
特に何をするでもないが、逆にいいのかと。問いかければ、シノは小さく目を細めた。
シノ「ああ」
キリ「……?」
疑問符だらけの頭で、キリは来た道へと足を向ける。
キリ「じゃあそろそろ戻る時間だから……行きましょうか?」
シノ「助かる。ありがとう」
キリ(ありがとう……??)
礼を告げたシノに、なおのこと深まった疑問。
キリ(あ……)
もしかして、ヒナタもキバもいなくて、寂しいのだろうか。
そんな見当違いな答え以外、キリは辿り着く事が出来なかった。
約束の二十分の少し前に、病室へと戻れば、そこにはすでに医療員の姿があった。
その手に持たれているのは、まとめられた検査結果で、随分と仕事の早いことである。時間よりも早く戻って正解だった。
『シノさん! こんにちは』
シノ「ああ」
にっこりと微笑んだ医療員に、シノもわずかに微笑み返す。
キリ「外に出た時に会ったわ」
『そうなんですね。シノさんも、お散歩ですか?』
「数日ぶりですね」と医療員が言えば、シノはそれに頷き返していた。
シノ「俺は修業に行くところだった」
キリ「数日ぶり? お母さん、まだ具合が良くないの?」
まだ入院しているのかと問えば、シノはそれを否定する。
シノ「いや、おふくろは退院している。病院へは用があって来ているだけだ」
どこかシノ本人の具合でも悪いのかと思ったが、シノはそれも否定する。