第77章 後退と前進と
第77話 後退と前進と
定期検査のために、病院へ訪れたキリは、案内された病室で一人、彼女の到着を待っていた。
すると、そう長くは待たずして、待ち人は現れる。
『キリさん!』
キリ「!」
久しぶりに聞いた医療員の彼女の声音と、短くしばられた髪がピコピコと揺れる愛らしいその姿。
キリ(……良かった)
長く中断していた検査。
病院へ来るまで、少し緊張していたが、もうその姿を見ても苦しくはない。
キリ「久しぶりね」
『もうお身体は大丈夫ですか? すみません、私……キリさん達が大変だと聞いていましたが、何も出来なくて……』
自分の医療技術では、到底助けになれなかったと、彼女は泣きそうな顔で眉を下げた。
キリ「ありがとう。その気持ちだけで充分」
本当に、良い子なのだと。そう思う。
こうして付き合いが出来てから、彼女の悪いところなど、見当たらない。
キリ「そんな顔をしないで。私もシカクさんも、もう大丈夫」
そう言えば、眉を下げながらも本当に良かったと、安心するような笑顔を見せた医療員。
『シカマルさんも、お元気ですか?』
シカマルの名が出た途端、恋する女の子の表情になる彼女は、素直に可愛いと思うし、そんな彼女が羨ましいとも思った。
キリ「……ええ、彼も元気にしてるわ。今日は任務があって来れなかったけど」
良かった。普通に返事をする事が出来る。
これも以前のような、じりじりとせり上がってくる胸の痛みを伴うことはない。
ただほんの少しだけ、返答に間が出来たのは気のせいだと、自分に言い聞かせた。